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「機械式時計=正確な時を知る道具」ではなくなった。時刻をきかれた紳士が無視した理由は?

時計好きにとっては面白い話。事実か否かはさておき、こんな話です。

駅で、50代くらいの紳士2人が話しているところに、知らない若者がやってきて、一人の紳士に時刻を尋ねたが、その時刻を尋ねられた紳士は完全に無視をした。

もう一人の紳士が「なぜ時間を教えてやらないんだ?」と尋ねると・・・

紳士は、「よく考えてみろ。あそこで俺が若者に時刻を教えたとする。そうすると若者は「電車の時間までまだしばらくあるんです。」だのなんとか言い出し、世間話が始まる。そのうちに話の流れから、私(紳士)の家に来てお茶でもするかかといった流れになる。そうすれば家にいる私の娘とその若者が会い、仲良くなろうモノなら、娘と結婚させてくれと言い出すだろう。しかし、私は普段から時計もしないような男を娘の婿にする気はない。」

これが紳士が若者に時刻を教えなかった理由・・・

時計好きには深イイ話かただの笑話か?(内容は私の記憶の範囲)だが、今思えば、昔は、一人前の男なら腕時計くらいしていないと社会的に信用されない・・・といった常識があったのは確かである。

現代における若者の時計離れが、車離れと同様に社会問題なのかどうかはわからないが、個人的には、「別に腕時計を無理にすることはないし、スマホだけで時間を確認することも否定しない。」と考えている。

それはなぜかというと、私が機械式時計をしている時であっても、時間を確認する際、2回に1回は、腕時計を見た後に、スマホで正確な時間を確認することがあるからだ。つまり時間を知るためらなスマホで事足りる、いやむしろスマホの方が正確な時を知ることができる。これ間違いない。

面白いもので、未だに200年以上前に発明された(腕時計の)技術の延長上にある機械式腕時計は、未完成の状態で、近代社会の現代においても機械式時計で叶えられる精度の最高峰=トゥールビヨンは一般的に数百万円する超複雑機構であるが、その最高峰でさえ、1000円のデジタルウォッチの精度にも及ばないだろう。まあその未完成の部分に男たちはロマンを感じるのだけど。


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つまり、言ってしまえば機械式時計は、この現代において、「時を知るための道具」としては、実に不正確で信頼性に欠ける代物だと言っていい。少々昔なら、誰もが1秒も違わない正確な時間を知る術がなかった(電波時計や携帯電話(スマホ)が普及しておらず、本当に正確な時間を知るためには、放送中のテレビ画面の上部に表示された時刻を確認するか、時報ダイヤル117に電話をするしかなかった。)ため、例えビジネスで約束をしていた相手が自分の時計で1分遅れてもそこまで気にはならなかった。しかし!現代では、誰もが容易に実時刻と1秒と違わない時刻を簡単に知れてしまう世の中故に、30秒の遅刻でも時に許されぬ世の中になったのだろう。

トゥールビヨンのような日差(姿勢差制御の要素が大きい)が優秀で1日5秒しかズレない機械式時計を所有していたとしても、30日間調整しなければ、約150秒のズレが生じている可能性があるため、現代のシビアな時刻の中で大半の人が行動する中、機械式時計の示す時刻はそのオーナーでさえも「当てにならない」と心のどこかでは認知しているから、並行してスマホの時刻を自然に見る癖がついているのではないか。

つまり、時計好きは意識こそしていないが、自信が大枚叩いて買った高級機械式時計であったとしても、それを時を知るためのツールだとは心底思っていないのだ。

では、現代における機械式時計は何か?

きっと「当てにはならないが、おおよその時間を知ることができ、ビジネスでも気にせず着けられるアクセサリーであり、私のキャラクターやステイタスを私に代わって表現してくれるモノ。」なんだと思う。

だから、若者の時計離れの本質は、そこに価値を感じなくなった。だけなのかも知れない。

その証拠に、若くして大きな成功を収めたインフルエンサーの多くは、リシャールミルやパテックフィリップといった超高級機械式時計を着けているのを非常によく目にする。彼らはそこに価値を感じているからこそアップルウォッチではなく、リシャールミルを選ぶのだ。

冒頭の紳士のように、もし私が駅で、若者に時刻を尋ねられたら、「今どきスマホも持っていないのか?」と聞いてみようと思う。



ABOUT ME
すんすん
高校生の時に図書館で「男の一流品図鑑」を見たことがきっかけとなり、以降時計収集の趣味に目覚める。これまで所有した機械式腕時計は100本以上。過去の成功や失敗を生かし「後悔しない時計選び」をアドバイスさせていただきます。 ・古物商資格(時計・宝飾品石商) ・潜水士

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  1. […] 自動車の燃料エンジンが自動車界から消えようとしているこの世の中で、自動車の燃料エンジンより古い発明である機械式時計人気は衰え知らずなのか?そんなことは決してない。十数年前には、時計界でもブランドが単独で生き残れる状況ではなくなってきた情勢から、時計ブランドのグループ化の流れが加速したが、今後の情勢次第ではさらに淘汰されるブランドやグループが出てくるかも知れない。また、この記事でも書いた通り、時計離れは確実に起きており、実際に時計業界全体の規模も最近は縮小傾向にある。さらにスマートウォッチの普及拡大で機械式時計メーカーもその在り方自体を模索している。一部の老舗時計ブランドは、将来を見越して数年前からスマートウォッチの開発と製造にも力を入れている。かたや未だ頑なに機械式時計や従来のクオーツ時計しか製造していないブランドも少なからずあるが、本当にその方針で今後も生き残っていけるのだろうか。 […]

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